ネット上に流れているレジンに関する情報でいくつか疑問に思うものがあったので、UVレジン液のメーカー様数社に問い合わせをした結果をまとめました。

まとめに至った経緯

ツイッターにて2013年よりレジンに関する情報を流すアカウント「レジンBOT」を運営していますが、ここ最近ツイッター上やまとめサイト等で「レジンアレルギーの危険性」「将来塵肺になる可能性がある」「防毒マスクが必要」「硬化したレジン作品を身につけても危ない」等様々なレジンの危険性に関する情報を多く目にする機会があり、レジン関連の情報を流す立場としてどこまで本当なのか各メーカーに問い合わせる事にいたしました。

対象とするレジン

レジン液はUVレジン液・2液等ありますが、今回の件ではUVレジン液を対象としています。
2液と情報を混合されないようにお願い致します。

今回お問い合わせしたメーカー様について

100均のUVレジン液メーカー様とハンドメイド関連で人気のあるUVレジン液メーカー様、合計5社にお問い合わせしました。
そのうちSDS(MSDS)を取り寄せたのが3社、質問をお送りしたのが4社です。
時間経過で情報が古くなったり、新製品と情報錯誤する可能性があるため直接社名の公開や商品名や商品情報についての記述を避けています。

問い合わせ内容

この質問は事前にツイッター上で皆様のご意見をお伺いしまとめたものです。

質問一覧

  1. 御社の販売しているUVレジン液の成分を教えてください。
  2. 御社が推奨するレジン制作環境および防御対策などあれば教えていただけないでしょうか。(例.換気をよくする等)
  3. 現在、ネット上で特に言われているのが「換気必須」「手袋着用」「マスク着用」「保護めがね着用」ですが 個人的に趣味で月数回制作される方、月に商売として100個ほど制作される方では気をつけるポイントなど違うのでしょうか。
  4. 素手でのレジン液の取扱いについては、素手に液体がつかなければ問題ないでしょうか。
  5. 使い捨ての手袋着用が必要な場合、市販のビニール手袋で問題ないでしょうか。
  6. 上記手袋で推奨しているメーカーや商品、一定の推奨条件などがあれば教えていただけないでしょうか。
  7. 有機ガスが発生するのでマスクが必要という説がありますが換気で防げる程度でしょうか。
  8. 上記有機ガス対策やおすすめの対策グッズや対策法などあれば教えていただけないでしょうか。
  9. レジンでマスクを着用しないと塵肺になるという説がありますが本当でしょうか。
  10. 塵肺を防ぐための防御対策やお勧めのマスクなどあれば教えていただけないでしょうか。
  11. レジンの研磨にマスクは必要でしょうか。もし必要な場合はお勧めのマスクなど教えていただけないでしょうか。
  12. 硬化後のレジン作品を身につけたりすることに危険はありますか?
  13. そのほか注意点等ございましたらお願い致します。

事前にご了承ください

免責

2015年11月時点のUVレジン液に関して問い合わせた内容をまとめていますが、時間経過による情報変化や主観的表現などがあるため、掲載情報の正確性、安全性、信頼性等につきましては、みなさまご自身が判断され、みなさまの責任において利用いただくものとします。
また記載されている内容、情報、掲載写真等は改良などの理由で予告なしに変更することがあります。あらかじめ ご了承下さい。

また、UVレジン液といっても各メーカーによって成分や取扱方法などは違いますので、各自が使用されているメーカーにご自身の制作環境や制作頻度を伝えたうえで問い合わせて頂いたほうが正しい情報が得られると思います。

SDS・MSDSについて

今回の問い合わせまとめに関して「MSDSを取り寄せて内容確認すればいいですよ」と数名の方々よりアドバイスをいただきました。感謝。

SDS・MSDSとは

MSDSは「化学物質等安全データシート」のMaterial Safety Data Sheetの頭文字をとったもので、 事業者が化学物質及び化学物質を含んだ製品を他の事業者に譲渡・提供する際に交付する化学物質の危険有害性情報を記載した文書のことです。

平成24年度より国際整合の観点から、GHSで定義されている「SDS」と名称が変更されています。

ですが一点注意点があります。
それは「SDS・MSDSはあくまで生産工場等で大量に使用する状況を想定した内容となっている」ということです。
個人使用とは異なる取り扱い方法、表現となっていますのでご注意ください。

各質問に対する答え

各メーカー様から公的見解の表明ではなく個人に対する回答として頂いたため、あくまで引用の範囲でまとめています。
大体はどこも返答が似てるのですが、一部違うところもあるので参考程度に一読ください。

推奨するレジン制作環境や服装格好などについて

  • 換気扇をつけたり、窓を開けたり密室での作業は避け、通気性の良い環境下で作業すること。
  • 安全な作業が確保できる服装、汚れても良い服装での作業をおすすめ致します。
  • 「換気必須」「手袋着用」「マスク着用」「保護めがね着用」は、気になる方はしていただければ良いと思います。
  • ほとんどの企業が皮膚刺激性の少ないものを利用し製造しているが皮膚や体に対しての感作性は個人差の幅がとても広いため、皮膚刺激に弱く、敏感な方は、手袋・マスク・保護めがねなど対策をされたほうが良いと思われます。

素手での取り扱いについて

  • 弊社のUV レジン液は、非常に皮膚刺激の少ない材料ですが、稀にアレルギー性皮膚炎を発症される場合がございます。素手での取り扱いは極力避けてください。
  • 手が荒れるなどの症状が出た場合はビニール手袋などのご使用をお勧めします。

手に付着した場合について

  • もし手に付着した場合は、一旦作業を中止し、すぐに水道水(ぬるま湯)と石鹸で良く洗ってください。
  • ベンジンやアルコールなどの溶剤で洗うことは避けてください。返ってUV レジン液の成分が皮膚に浸透しやすくなります。

使い捨ての手袋について

  • ニトリル製の手袋を推奨します。耐薬品性が優れ、突き刺し強度に優れています。
  • 天然ゴム製、塩化ビニール製の手袋は、耐薬品性があまりよくありません。また、天然ゴムにはアレルギーがある場合がありますので、ご注意ください。
  • ポリエチレン製、塩化ビニール製は、突き刺し強度や耐久性に劣りますので、万一破れたり、穴が開いたりした場合にUV レジン液が手に付着することがあります。
  • 市販のもので問題ありません。
  • 使い捨てタイプの場合、耐油性、強度があまりありません。破れたり、穴が開いたりした場合は取り替えてください。

マスク・有機ガスについて

  • 理想的には活性炭入りのマスク(3M 社製等)着用ですが、発生するガス量は極わずかですので、換気のよい場所で、UV 硬化中にランプ近くに顔を寄せるなどしないよう注意すれば、健康に害はないものと考えています。
  • 万一、気分が悪くなった場合は、新鮮な空気を取り入れ、しばらく作業を中止してください。
  • 発生するガスにつきましては、現状、日本産業衛生学会の許容濃度は特に設定されておリません。この時のガス濃度での人体へ影響があるという報告、知見は現在のところありません。
  • 換気によって、かなりガスを低減できると思います。通常の作業で発生するガスは量的には微量であり、この程度のガス濃度によって人体に障害が起きるというような知見は現在のところはありません。
  • 弊社のレジン液は有機ガスは発生いたしません。

塵肺について

  • 塵肺は、数ミクロンの微粒子を長期間吸い続ける環境にあると発症すると言われています。
    硬化したUV レジンをグラインダー等で細かく削り、大量の粉じんを発生させた環境に毎日長時間いる場合を除いて、塵肺はほぼ心配ないと考えます。
  • 弊社が使用しております原材料に現在のところそのような知見、報告のあるものは存在していません。
  • 手芸用途での使用範囲内の少量であれば、問題ありません。

塵肺用マスクについて

  • 研磨して大量に粉じんが舞う場合は、一般的な防じんマスクで良いかと思います。3M 社製等の使い捨てもあります。
  • 粉塵が気になる方はマスクなどの着用をお勧めします。推奨しているものは特にありません。市販のものをご使用下さい。
  • 必須とは断定できかねます。
  • 硬化した原料アクリレート化合物は網目状の高分子になり、それ自体には毒性はないと考えられます。
    制作物に未反応物が残っている可能性があり全てが高分子になっていないことも考えられますが、液体時よりも安全性はかなり高いと考えられます。
    従いまして、防塵マスクが必須かどうかは個々人の判断という事になるかと思います。

硬化後のレジン作品を身に付けることについて

  • 硬化後のレジンは、充分に硬化されてあれば、皮膚に接触しても問題はありません。
  • 現在のところ、レジン作品を身につけた場合に障害があるという報告はありません。
    個人差もありますので、何か異常、異変が起きた場合は使用を取りやめて下さい。
  • 完全に硬化した後のレジン作品は、一般的に販売されている樹脂アクセサリーと同じ素材になりますので、危険性はありません。

その他の注意点

  • 粘度が高いため、飛び散る危険は少ないですが、念のため保護メガネ(ダテメガネ等)の着用をお勧めします。
  • 硬化前はもちろんですが、硬化後も口に入れることは絶対に避けてください。
  • 特に乳幼児のいるご家庭では細心の注意をお願いします。
  • 取扱い作業中の飲食は避けてください。万一の誤飲・誤食を避けるためです。
  • 食品用の容器を使用する場合は、使用後には食品用として使用せず、UV レジン専用としてください。
  • 人体(爪など)への直接使用は避けてください。硬化熱等によるダメージその他、予期しない健康への影響が懸念されます。
  • 注意点は、商品に入っている取扱説明書に記載させていただいております。
  • 当社のレジン液は、人体に影響を及ぼす成分は含まれておりません。安心してご使用ください。

結論

通気性の良いところで直接レジン液を触らないように制作(手袋などしたほうが液体の付着を避けることが出来ます)を各社とも推奨されています。
メガネやマスクは気になる人がすればいいレベルで必須ではないようです。

販売目的等で数多くのレジン作品を制作される方はSDS・MSDSを各メーカーから取り寄せて参考にされても良いと思いますが、趣味で制作されている方はそこまで過敏になる必要はないように思いました。

ネット上の情報について

今回の問い合わせをするきっかけとなったレジンに関するネガティブ情報が全て風評とは思いませんし、おそらくレジン造形関係(造形師や原型師の方)からの様々な情報が手芸レジンユーザーに入ってきたのかなと思います。

造形師や原型師の方が使用するレジン液や研磨作業を必要とする大型作品には、防毒マスクや塵肺などの対策が必要なのかもしれませんが、手芸でちょっとしたレジンアクセサリーを作る方々と作品のスケールや工程、取り扱う液体などそもそもの基準が違うのにひとまとめでレジンと括ってしまった結果が今回のような情報の錯綜につながったように個人的にはしています。

もちろん健康や安全を考えて防御対策はどれだけ過剰にしても問題ないと思いますが、いたずらに不安がる必要もないと思います。
一番いいのは、やはり使用されているメーカー様へ直接問い合わせてみることではないでしょうか。

また、まとめサイトでレジンの健康被害についての記事を読み、不安を感じた方もいると思いますが、そもそもまとめサイトの情報自体もどこまで確かなものなのかは疑問です。

なぜなら現在のまとめサイトの多くは閲覧数に応じて金銭を支払う報酬型のサービスを行っているため、閲覧数を増やすために目に付くタイトルや不安を助長して記事先へ誘導するタイトルにしている場合があるからです。
お小遣い稼ぎのまとめサイト記事は情報を鵜呑みにするのではなく、少し疑うくらいの気持ちで閲覧されたほうがいいと思います。

レジンアレルギーについて

レジンアレルギーに関して一部発症されている人がいるのも理解していますが、金属ひとつとっても金属アレルギーの方もいますし、体質による個々の差をひとまとめに安全か危険か結論を出すのはいささか極端ではないでしょうか。
レジンアレルギーについての危険を触れ回るよりも、どうしたらレジンアレルギーにならないために対策すればいいかを調べることのほうが有意義に思います。

自分で選択してレジン制作しているわけですからどこまでいっても自己責任です。
きちんと自分の取り扱う物のいい点・悪い点を知り、知識を持てば様々な状態を対処することは可能です。

この記事も含めてネット上の情報に終始するのではなく、あらゆる角度から情報を精査頂ければと思います。

メーカーへの問い合わせについて

一部のメーカー様には今回の件で直接メーカー様へお問い合わせを促すようにまとめることを事前にお伝えしています。
ですがお問い合わせをされる際に皆様にお願いしたいことがあります。

  • 商品の注意事項をきちんと読もう
    当たり前のことですが取扱いに関して各メーカー共に商品の注意書き・成分表示はしていますし、メーカー側に落ち度はありません。
    全て自己責任となりますので、ご自身のためにも読むことをおすすめします。
  • そもそも問い合わせる前にレジン制作を続けるのか自分自身の体質等を考えてみる
    アレルギー体質や気管が弱い方は自分の体質を考え、本当にこの先も継続して制作するのかを一度考えてみてください。
    どのようなものでも合う・合わないはあります。
  • クレームではなく質問を
    今回のお問い合わせがクレーム多数と判断された場合はレジン商品自体の販売縮小に繋がる場合もありますのであくまで「質問」としてお問い合わせ頂ければ幸いです。
    また今回の件でメーカー様への問い合わせが増えると思いますので返答までに時間がかかることを想定し気持ちに余裕をもって、そして回答に対して感謝の気持ちを忘れずにお願いします。

今後について

今回各メーカーへのお問い合わせについて様々な反応をネット上で頂き、賛否両論ありました。
ですが個人的にはもやもやしていた部分がすっきりして問い合わせてよかったと思いました。

結局私も始めは驚き、レジンBOTを通して不安になるような情報を皆様にRT拡散してしまいました。
今後は危険性に関する情報については情報提供元を見極めた上で、皆様にお伝えするかどうかを考えたいと思います。

また、今回の問い合わせにあたり丁寧に対応くださったメーカーの方にも感謝しています。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

至らないところもたくさんあると思いますが、今後もレジンBOTに様々なご意見をいただければ幸いです。

長文を読んで頂きありがとうございました。

→レジンBOTについてもう少し知りたい方はこちら